こんにちは、PR TIMESのバックエンドエンジニアのSongです。今回はPR TIMESにおけるメールの一部をSendGridで送信するようにしたことについて紹介します。
背景
PR TIMESにおけるメールはPrTimesMailerというメール送信機能から送信され、Postfixを利用してSMTP経由で外部のメールサービスに送信して、実際の配信は外部のメールサービス経由で行っています。
PrTimesMailerが作成された話については、以下の記事をご覧ください。

しかし、PR TIMESがプレスリリース配信サービスである特性上、プレスリリース配信が多い時間帯にはメール送信が集中するため、実際に配信を行っている外部のメールサービスの負荷が増大し、遅延が発生することがあります。その結果、本登録確認メールやパスワード再設定案内メールなど、即時に届く必要があるメールの送信がその時間帯のみ10~15分ほど遅延し、ユーザー体験が低下していました。
外部のメールサービスの負荷軽減と、即時に届く必要があるメールの遅延問題を解決するために、これらのメールの送信方法をSMTPからSendGridのメール送信用Web APIに切り替えることにしました。
SendGridは、世界中で広く利用されているメール配信サービスで、SMTP APIやWeb APIを使ってメールを迅速に送信できます。また、直感的な管理画面を提供しており、メール管理が容易です。
その上、弊社ではSendGridのメール送信用Web APIを活用したアプリケーションを既に持っています。これは、メールの情報を含むメッセージをSQSにエンキューするだけでメールを送信できるアプリケーションです。今回、そのままこのアプリケーションを活用できるため、新規にアプリケーションを作成する必要はなく、実装コストを削減することができます。
このアプリケーションの仕組みについては、以下の記事をご覧ください。

本記事では、即時に届く必要があるメールをこのアプリケーションで送信できるように、どう実装したかや、実装中に直面した課題ことなどについて書きたいと思います。
実装方法
今回、改修するシステムはSendGridでメールを送信するアプリケーションのクライアントとして機能し、メール情報を含むメッセージをSQSにエンキューするだけで簡単にメール送信を行うことができます。
それでは、この仕組みをどのように実装するか、詳しく見てみましょう。
改修前のシステムでは、以下の手順でメールを送信していました。
- PrTimesMailerは、呼び出し元からメール送信に必要な情報を持つMailableインスタンスを受け取って、実際に送信を実装するメールトランスポーター(以降MailTransporter)に渡す
- MailTransporterはMailableインスタンスを適切にメッセージに変換して、送信を行う
現在、PrTimesMailerにはSMTPでメール送信を実装するMailTransporter(以降SMTP Transporter)のみが使用されています。ただし、設計時に、将来的にSMTP以外のメール送信方法に切り替える可能性を考慮して、その変更や拡張が容易になるようにMailTransporterにインターフェース(以降MailTransporterInterface)を作成しておきました。
既存の設計は以下のような感じです。

そして、ついにメール送信方法を変更する時が来ました。
今回、PrTimesMailerにSendGridでメールを送信するアプリケーション用の新たなMailTransporterを作成することで、同アプリケーションを使用してメールを送信できるようになります。このMailTransporterはMailTransporterInterfaceを実装して、中身はMailableインスタンスをSendGrid Web APIのリクエストボディー情報を含むメッセージへ変換してから、SQSにエンキューする形で実装します。
クラス設計とコード実装
今回のクラス設計は以下のようになっています。緑色が新規作成したクラスやインターフェースとなります。

この設計の中心は、SendGridでメールを送信するアプリケーション用のSendGridTransporterです。このMailTransporterの実装は、次の2つの部分に分かれています。
Mailableインスタンスの変換
クラス設計の左側に位置し、MailableインスタンスをSendGrid Web APIのリクエストボディを含むメッセージに変換する役割を担います。
具体的には、Mailableインスタンスを受け取り、RequestBodyFactoryを通じてRequestBodyのインスタンスを作成します。このRequestBodyは、SendGrid Web APIのリクエストボディの情報(宛先・本文・etc…)を保持するクラスです。JSON形式でリクエストが送信されるため、それをサポートするtoJson()メソッドも実装しました。
RequestBodyのエンキュー
クラス設計の右側に位置し、作成されたRequestBodyをSQSにエンキューする役割を担います。
PHPを利用してPR TIMESからSQSと通信できるように、aws-sdk-phpパッケージを導入し、SqsClientを使用しました。また、SqsMessageQueueにはインターフェースを実装しておきました。これは、将来の拡張や変更を容易にするためで、別のキューサービスに移行する際にも、システム全体を大幅に変更せずに対応できる柔軟性を提供します。
今回、実装したコードは以下のような感じです。なお、RequestBodyFactoryの実装には困ったことがあったので、次のセクションで書きたいと思います。
// 既存のMailTransporterInterace や 新規作成 SendGridTransporter
interface MailTransporterInterface
{
public function send(MailableInterface $mailable): bool;
}
class SendGridTransporter implements MailTransporterInterface
{
public function __construct(
private MessageQueueInterface $messageQueue,
private string $serverMode = SERVER_MODE
) {}
public function send(MailableInterface $mailable): bool
{
try {
$requestBodyFactory = new RequestBodyFactory(
$mailable,
$this->serverMode
);
$requestBody = $requestBodyFactory->create();
$this->messageQueue->enqueue($requestBody->toJson());
} catch (Exception $e) {
throw new MailTransporterException(
$e->getMessage(),
$e->getCode(),
$e
);
}
return true;
}
}
/**
* @see <https://www.twilio.com/docs/sendgrid/api-reference/mail-send/mail-send#request-body>
*/
class RequestBody
{
/**
* @param Content[] $content
* @param Personalization[] $personalizations
* ...
*/
public function __construct(
public string $subject,
public Address $from,
public array $content,
public array $personalizations,
...
) {}
/**
* JSON形式に変換する
*/
public function toJson(): string
{
$requestBody = [];
$requestBody['subject'] = $this->subject;
$requestBody['from'] = $this->from->toArray();
foreach ($this->content as $content_item) {
$requestBody['content'][] = $content_item->toArray();
}
foreach ($this->personalizations as $personalization) {
$requestBody['personalizations'][] = $personalization->toArray();
}
// ...
try {
$json = json_encode($requestBody, JSON_THROW_ON_ERROR);
} catch (JsonException $e) {
throw new FailedToJsonEncodeException(
'Failed to json_encode: ' . $e->getMessage(),
$e->getCode(),
$e
);
}
return $json;
}
}
// MessageQueueInterface や SqsMessageQueue
interface MessageQueueInterface
{
public function enqueue(string $message): void;
}
class SqsMessageQueue implements MessageQueueInterface
{
public function __construct(
private SqsClient $sqsClient,
private string $queueUrl
) {}
public function enqueue(string $message): void
{
try {
$this->sqsClient->sendMessage([
'QueueUrl' => $this->queueUrl,
'MessageBody' => $message,
]);
} catch (AwsException $e) {
throw new FailedToEnqueueException(
$e->getMessage(),
$e->getCode(),
$e
);
}
}
}
新しいMailTransporterの使い方
新規作成したSendGridTransporterは以下のコードのように使えます。
PrTimesMailerに注入されるSmtpTransporterをSendGridTransporterでリプレイスすることで、メールをSMTPからSendGridのWeb APIで送信に切り替えることができます。
// SmtpTransporterのインスタンスを作成する
// $smtpTransporter = new SmtpTransporter();
$sqsClient = new SqsClient(['region' => REGION, 'version' => VERSION]);
$messageQueue = new SqsMessageQueue($sqsClient, QUEUE_URL);
// SendGridTransporterのインスタンスを作成する
$sendgridTransporter = new SendGridTransporter($messageQueue);
// SMTPでメールを送信するMailerインスタンスを作成する
//$mailer = new PrTimesMailer($smtpTransporter, $logger);
// SendGridのWeb APIでメールを送信するMailerインスタンスを作成する
$mailer = new PrTimesMailer($sendgridTransporter, $logger);
// Mailableインスタンスを作成(パスワード再設定案内メール)
$mailable = MailableFactory::createPasswordResetGuideMail();
try {
$mailer->send($mailable); // メール送信を行う
} catch (MailTransporterException $e) {
// 例外ハンドリング
$logger->error('Failed to send mail' . $e->getMessage());
}
実装中に直面した課題
今回の実装には以下の課題を直面しました。
弊社ではステージング環境でPostfixを利用して、会社のメールアドレス以外には外部にメール送信を行わない設定しています。これにより、ステージング環境上でお客様のメールアドレス宛にメールが送信されることを防げます。
しかし、今回はメールがSMTPではなく、SendGridのWeb APIで送信されるため、このPostfixの設定は効果がありません。そのため、ステージング環境上でメールが外部に出て、お客様のメールアドレス宛に送信されてしまうので、非常に危険です。
この課題を解決するため、ステージング環境で送信されるメールの宛先やCCを開発用のメールアドレスに上書きすることにしました。
これにより、ステージング環境で送信された全てのメールは開発用のメールボックスに入り、そこで確認できて、お客様宛に直接メールを送信してしまう問題を回避することができました。
さらに、上書き前の宛先やCCはX-Original-ToやX-Original-CCというカスタムヘッダーに追加することで、元の情報を確認できるようにしました。
この解決方法のデメリットとしては、ステージング環境と本番環境の挙動が異なるため、ステージング環境でのみ実行されるコードになってしまいます。しかし、チームと相談した結果、これ以外の良い方法が見つからなかったため、現時点ではこの方法が最善策であると判断しました。
この上書き処理がRequestBodyFactoryで実装しています。コードは以下のような感じです。
class RequestBodyFactory
{
public function __construct(
private MailableInterface $mailable,
private string $serverMode = SERVER_MODE
) {}
public function create(): RequestBody
{
if ($this->serverMode !== PRODUCTION) {
return $this->createForNonProductionEnv();
}
return $this->createForProductionEnv();
}
private function createForNonProductionEnv(): RequestBody
{
[
$personalizations,
$originalToEmailList,
$originalCCEmailList
] = $this->getPersonalizationsWithOverriddenToAndCC();
$requestBody = new RequestBody($personalizations, ...);
if (count($originalToEmailList) > 0) {
$header = new Header('X-Original-To', implode(',', $originalToEmailList));
$requestBody->addHeader($header);
}
if (count($originalCCEmailList) > 0) {
$header = new Header('X-Original-Cc', implode(',', $originalCCEmailList));
$requestBody->addHeader($header);
}
return $requestBody;
}
/**
* ステージング環境の場合は、メールの宛先やCCを開発用のメールアドレスで上書きする。
* ステージング環境でメールを直接ユーザーに送信しないようにするため
*/
private function getPersonalizationsWithOverriddenToAndCC(): array
{
$personalization = new Personalization();
$originalToEmailList = [];
$originalCCEmailList = [];
// 宛先の上書き処理を実行
$originalToList = $this->mailable->getToList();
for ($i = 0; $i < count($originalToList); $i++) {
// メールアドレスを開発用のメールアドレスで上書きする
$address = new Address(
"devteam_mail{$i}@prtimes.co.jp",
$originalToList[$i]->display_name
);
// 元のメールアドレスを "{上書きしたメールアドレス}->{オリジナルメールアドレス}" の形式で保存する
$originalToEmailList[] = "{$address->email}->{$originalToList[$i]->email}";
$personalization->addTo($address);
}
// CCの上書き処理を実行
$originalCCList = $this->mailable->getCC();
// ...
return [
[$personalization],
$originalToEmailList,
$originalCCEmailList,
];
}
/**
* このメソッドは本番環境のみに動く
*/
private function createForProductionEnv(): RequestBody
{
return new RequestBody($this->getPersonalizations(), ...);
}
// ...
}
最後に
今回の実装により、PR TIMESの一部のメールをSendGridで送信に移行することができ、SMTPでの送信方法の負荷を減らすことができました。その上、即時に届く必要があるメールの延長など問題を解決することができて、メール配信の信頼性とスピードが向上し、ユーザーの体験も改善されました。
また、PR TIMESにおけるメールはSMTPのみならず、SendGridのWeb APIを利用して送信できるようになったため、柔軟に適切なメソッドを選択し、必要に応じて切り替えることが可能になりました。
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